近所にたこ焼きの屋台ができたので買ってみた.おばちゃん一人で屋台を切り盛りしてるらしい.これと言って理由も無いが,ふと「たこ焼きだけなの?」と聞いたら,うちは一つの商品に命賭けてんだよと怒られた.
そんな職人気質が気に入ってもう一度買ってみようかと立ち寄ったら,看板が変わっている.「こ」の字が90度回されて「い」の字,たい焼き屋に鞍替えしたらしい.鯛焼きでもいいやと中を覗いてぎょっとした.
たこ焼き用の凹んだ鉄板のままである.そこに鯛焼きならぬボール焼き?が作られていた.
「おばちゃん,これ,鯛焼きじゃないだろう」
「丸いだけで,味はおんなじよ」
「でも鯛の形,してないじゃん」
「よくみなよ.これは鯛の目玉なんだよ」
ご丁寧に黒目の焦げが入っている.気味悪いながらも,つい買ってしまった.なるほど形は目玉だが,味は鯛焼きである.一口サイズなので,目玉と思わなければ食べやすい.
次に見た時は,玉子焼き屋になっていた.目玉焼き屋じゃなくて良かったと思ったものの,鉄板はやっぱりたこ焼き用.球形玉子焼きなんて器用なものをよく作るもんだと感心しつつ,それを買ってしまう自分もちょっと変かなと思った.
おばちゃんのチャレンジは,次第にエスカレートしていった.玉子焼きから,タバスコ焼きになっていた.流石に無茶だろうと思ったら,ボール型玉子焼きのタバスコかけ.これは結構旨い.
次は玉ねぎ焼きになっていた.店に近づいただけで涙が出てきたが,タバスコ入り焼き肉のタレにあう.
その次は長ネギ焼きだった.強烈な味である.頑張って食べた.
なると焼き.目ん玉の上に渦巻きが整然と並んでいた.勿論買って食べた.
トマト焼き.プチトマトの丸焼きだった.さすがにここまで来たら手抜きだと思って,おばちゃんに言った.
「おばちゃん,これ,プチトマト焼いてるだけじゃん」
「あたりまえだよ.うちはトマト焼き屋だ」
「そんなんじゃ商売にならないだろ」
「あたしゃ商売なんかしてないよ」
「え?」
「あんたがあんまりにも乗りが良いもんだから,どこまで耐えられるか試してたんだ」







