「Music」カテゴリーアーカイブ

音を合成すること

今年の夏、Robert Moog博士の訃報が流れました。言わずと知れたシンセサイザーの生みの親です。まあ、知らない人は知らないほどの古い人ではありますが。電気信号をフィルターに通す事で音色を変え、さらに強弱を付け、変幻自在に音楽を作り出す事ができるアナログシンセサイザー。オーケストラはこれで廃業なんて言い出す人も居たとか。

こういう「電気モノ」って、理系かつ音楽好きはシビレルものです。それはまだ自分が中学生だったジュラ紀、電気の力でどんな音でも出せるシンセサイザーは夢の楽器でした。富田勲のようにこれに入れ込んだ人以外にも、ロックや映画音楽等、シンセサイザーは至る所で登場します。特に日本で有名になったのは、BeatlesのAbby RoadとYMOでしょうか。

当時たまたま読んだ文章。ストラデバリウスだろうが電気信号だろうが、空気の振動に変えたものが同じなら区別はつかない、だからストラデバリウスの音は合成できる、というのは、まさに目から鱗でした。多分、糸川英夫氏だったと思いますが、ちょっと記憶があやふや。なんせジュラ紀の事ですもん。

その文章に続いて、何やら複雑な数式が並んでいましたが、今思えばあれはフーリエ変換の式ですな。どんな複雑な音色だろうが、単純な三角関数の和として表すことができるというもの。

ちょっと話は違いますが、ピアノのタッチについて書かれたものを思い出しました。プロが鍵盤を叩いた時と、アマチュアが叩いた時では、タッチが全く違うと言われたりします。でもこの著者は「リヒテルだろうが音楽とは無関係の人だろうが、同じ速度で鍵盤を叩けば、出て来る音は全く同じ」と切り捨てます。タッチとは音の連続があって初めて感じられるもの、単音でのタッチの差はあり得ないと。著者はネイガウス、あのブーニンの祖父だったりします。

これを読んだとき、なんとまあ物理的に音楽を考える音楽家が居るもんだと、ちょっと感動しました。全く同じ空気振動を与える音は、グールドが弾こうがアルゲリッチが弾こうが、全く同じもの。それを考えると、糸川氏の話も、さもありなん。

話題が全然まとまりませんが、とにかくシンセサイザーです。往年のアナログシンセをPC上でエミュレートするSpiralSinth Modularがあります。興味のある方はどうぞ。とてつも無く高価だったMoogシンセサイザーを、今ではコンピュータ上で再現できる。不思議なもんです。

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満月の夜の怖い音楽

仕事の帰り、東の山の峰すれすれに月がかかっています。一月程前の十五夜の頃、Cembalopianoさんが「月にちなんで」という文章を書かれていたのを思い出しました。今夜は満月。話題はBeethovenの「月光ソナタ」、Debussyの「月の光」…

いえいえ、もうすぐHalloweenです。月にちなんだ怖い音楽、A.Schoenbergの”Pierrot Lunaire”, 月に憑かれたピエロ。全曲21曲からなる歌と室内楽からなる組曲。当然Schoenbergですので、30分の演奏の間、無調性音楽の不協和音の中に身を置くことになります。

この音楽の特徴は、歌手がまるで喋るように歌う事。SprechgesangとかSprechstimmeと呼ばれ、音符通りに歌うのではなく、音符に沿って話します。今風に言えば「ラップ」ですね。で、その語り部分、ちゃんと5線譜上の音符として書かれております。スコアを見ながら聴くと、どんな風に音符を「語って」いるのかが分かって面白いです(スコア、もちろん持ってます)。

歌われる(語られる?)歌詞は、とにかく不気味。月の光でピエロの頭がだんだんとイカレて来るというもの。表題も、例えば「絞首台の歌」だの「斬首」だの。夜中、部屋の電気を消してこの曲を聴くと、ドイツ語の意味が分からなくても、非常に涼しくなること請け合い。

一度だけ、この曲をライブで聴いたことがあります。Santa Feで夏場開かれる室内楽祭。観光地の観光シーズンということもあり、かなりの観客はSchoenbergを知らずにコンサートホールにやって来た模様。案の定、曲が始まり、歌手の声が次第に狐でも憑いたかのようになってくると、絶えきれなくなった客が次々とホールを去っていきました。

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なんちゃって印象派

先日、友人から夕食に招待された際、家にあった小さなアンティークピアノを弾かせてもらいました。手に入れたばかりとかで、調律など無いに等しいピアノでしたが、おもしろいことに鍵盤一つ一つの幅が狭く、オクターブを弾くつもりで九度音程を叩いてしまいます。

こういう機会、つまり人前でピアノに触るとなると、必ず出て来る問題が「何か弾いてくれ」と言われるもの。弾く分には別に構わないんですが、悲しいかな、暗譜が出来ないタチです。楽譜無しには「エリーゼのために」すら弾けません。

なんちゃって印象派は、そういう時に使える裏技。ちょっと覚えておくと、とても便利です。

雰囲気としては、Debussyの「音と香りは夕暮れの大気に漂う」という感じ。とは言っても難しいことは何もありません。次の事をマスターすれば良いだけ。

まず、弱音ペダルを踏んだまま、両手で和音を押さえます。和音はドミソとかになっていてはいけません。C#から始めて、長短三度音程を、5本の指全部使って適当に積み重ねます。左右の手、同じ和音を押さえるのが安全です。

手の形をそのまま保ったまま、ゆっくりと高く低く平行移動して旋律らしきものを作ります。常に左右10本の指を使います。一番低い音が常に黒鍵になるようにします。

時々、低音で間の手を入れます。左手の基本は、C#→F#の5度跳躍です。

以上を3回ほど繰り返します。弱音ペダルは常に踏んだままです。その間、もっとも重要なことがあります。それはタイトルを考えること。なるべく詩的なものが好ましく、例えば「枯れ葉は夕日に映えて舞う」とか「月光のさす荒れ野」とか。

適当なタイトルをでっちあげたら、おもむろに演奏をやめて説明します。

「今のは、Debussyの前奏曲集第二巻から、『黄昏の丘は甘き葡萄の香りに満つ』のさわりの部分です」

タイトルは少々くさい程度で丁度良いくらいです。適当にやる即興演奏の方は、全然デタラメで構いません。それっぽいタイトルが付いていることが、まず大事です。

表題は間違っても五七調になってはいけません。「黄昏の甘き葡萄の香りかな」なんて言ったら、即ハッタリがばれてしまいます。

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Parisで楽譜蒐集

パリ滞在中に行った楽譜屋は、結局二軒だけ。あまりたくさん買い込むと、荷物が重たくなってしまうので、ほどほどのところで止めておかないと。

AriosoとFlute de Panという2つの店。どちらもSt-Lazare駅横のRoma通り、駅に沿って歩いてちょっとの所にあります。界隈はヴァイオリンや金管楽器店が並び、楽器を持った人が行きかっています。

Ariosoの方は、新品の楽譜のほか中古楽譜やディスカウント品もあり、掘り出し物を見つけられそう。Flute de Panの方はちょっと厄介で、まず買い物リストを作っておく必要があります。店員にこれこれが欲しいというと、膨大な楽譜ストックの中からマニアックな一品を持ってきてくれます。但し、自分で物色することはできません。

今回の収穫物は、以下のとおり。

  • F. Poulenc, ピアノアルバム
    ピアノソロの小品が12曲収められています。

  • D. Milhaud, Scaramouche
  • R. Schumann, ピアノ五重奏
    実はこれ、ピアノ四重奏を買うつもりが、間違って買ってしまったもの。この曲ならAmazon.comとかでも手に入るでしょう。

  • C. Franck, 前奏曲、アリアと終曲
    日本でも売られていますが、たったの3Euroだったので衝動買い。
  • K. Weil, Die Dreigroschen Oper
    三文オペラの組曲のほうです。まさかこれは無いだろうと思ってたんですが、あっさり見つかりました。

その他にピアノ編曲もの2つ。Stravinskyの「春の祭典」と「火の鳥」。オペラの譜面をピアノ用に落としたものはよくあり、もっぱら歌手の練習の伴奏用です。僕もWagnerの譜面を幾つか持っています。でもバレエ曲の編曲ものは盲点でした。確かにピアノ伴奏で練習はできそうです。でも、このStravinskyの譜面、とてもじゃありませんが伴奏というレベルじゃ無いです。

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ブラスアンサンブル

一昨晩、恒例のLos Alamosのコンサートに行ってまいりました。以前、五嶋みどりが来たのと同じシリーズです。出し物はブラスアンサンブルで、Burning River Brassというグループ。1996年結成ということですので、まだ新しいアンサンブルです。

聞いたこと無いグループだったし(と言うかBrass ensembleって、Canadian Brassしか知らんし)、そもそもブラスのコンサートって一度も行ったことありません。僕の金管ブレインに買いかどうか尋ねたところ「とりあへづ買いでせう」との事だったんで、行ってきました。チケットはたったの$28だし、会場はすぐ近くの高校のホールだし。

編成はTrumpet 3, Horn 2, Trombone 3, Bass Trombone 1, Tuba 1, Percussion 1の11人。でもパンフレットの写真には何故か12人写ってるんですよね。座敷童か?もしかしたらTrumpetは4人居たかも。バストロのお兄さんはTuba持ち替えてたみたいだったけど、そんなの有りなんですね。

編曲ものを中心にやっており、J.S. Bachの2つのViolinのConcerto (d moll)をTrumpetで吹いてるのは、なかなかお見事でした。コンサートの後半はD.ShostakovichのJazz組曲からFoxtrot、G.GershwinのBlue Lullaby、そして D.Mihaud(ミヨー)のScaramoucheから「サンバ」という風に、近代物中心。このScaramoucheという曲、もとは2台のピアノ用だったそうなので、こんど機会があったら楽譜を探して見よう。

Brassオリジナル曲が2つ。一つはGoff Richardsの “Homage to the Noble Grape”。飲んでどんちゃん騒ぎという趣向の楽しい曲。もう一つはAnthony DiLorenzoという人の”Cinematic Brass”。ハリウッド映画のサントラ聴いている様な、とっても
アメリカンな音楽でした。ふぅ、Brassの世界、意外と奥は深いぜ。

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Erik Satie, Parade

以前にもちょっと取り上げたErik Satie,Gymnopediesの1,3番と,シャンソン Je te Veux(おまえが欲しい)が何と言っても有名ですが,BGMっぽい初期の音楽よりも,神秘的・諧謔的な中期・後期の音楽に面白いものが沢山あります.「犬の為のぶよぶよした前奏曲」の様な珍妙な表題の音楽も,この頃のもの.「夢見る魚」なんて洒落た名前,自分のサイト名に付けたくらいです.

自分自身,酒場のピアノ弾きをやっていた関係か,作品の殆んどはピアノ曲ですが,舞台音楽の為の管弦楽曲が幾つかあります.1917年に作曲されたParade(パラード)はバレー音楽.初演時の舞台衣装はPablo Picasso,脚本はJean Cocteauという錚々たる顔ぶれです.

このParade,残念ながら,未だにバレエの公演を見たことがありません.マイナー音楽マニアの悲しい所です.できればスコアを手に入れたい所ですが,ちょっと難しそう.オーケストラには,タイプライターやらサイレンのような「特殊楽器」が使われているそうです.

オケ版は手に入らなくとも,ピアノ4手に編曲された楽譜があり,音楽には触れることができます.高橋悠治らによるCDも出ています.例によって珍妙なタイトルが付けられた6曲.

  • 赤い幕の前奏曲 Prelude du rideau rouge
  • 中国人の手品師 Prestidigitateur chinois
  • アメリカの少女 Petite fille americaine
  • 蒸気船のラグタイム Rag-time du paquebot
  • アクロバット Acrobates
  • 赤い幕の前奏曲の続き Suite au prelude du rideau rouge

ラグタイムはソロに編曲されたものがあるので,やや有名かも.

音楽の背景は,見せ物小屋の前で客寄せをする芸人達.手品師,踊り子,曲芸師.サーカスを舞台にしたような,当時の前衛芸術.

音楽は,ポリリズム・ポリフォニー・全音音階,そして執拗な反復を用いたもの.バレーは,おそらく仰天もの.静かなBGMのSatieでは無く,20世紀初頭のParisを卒倒させたSatieの音楽,こういう側面を知るのも楽しいものです.

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