傘の話

「そろそろ会社に戻らないと…」

ネクタイを閉め直しながら呟いた。営業の途中、彼女のマンションにふらりと立ち寄り、ほんの少しの時間のつもりが、今では外は雷雨。営業中に本社から割り込まれないように携帯を切っているという言い訳は、そろそろ使えない時間である。

「そうね。寄ってくれてありがとう」
「うん、また来るね。あ、傘、あるかな。持ってないんだ」
「ええ、もちろん。あなたに特別な傘を作っておいたの」
「特別?」

hands-free unbrella

「ほら、これ。柄が無いでしょ。帽子タイプにしてみたのよ。あなたいつも営業資料を沢山持ってるから、これなら両手があくわ」
「おい、また変な物、作って…これ被って外を歩けって言うのかよ」

彼女の趣味は発明である。役に立つのか全く分からない珍品を作っては、実用新案を申請している。どうやら収入もそこそこあるらしい。彼女の気持ちを傷つけるのも嫌なので、取り敢えず被ってみた。外に出たら捨ててしまえばいい。



hands-free unbrella

「これで、どうかな?」
「ええ、素敵よ。きっと皆、振り返るわ」
(そりゃそうだろう、絶対捨ててやる)

「あ、その傘の開け閉めなんだけど、自動になってるの」
「へ〜、それはすごいね。スイッチはどこにあるんだ?」
「リモコンよ。ほら、これ」
「結局は開け閉めに手が必要だな。じゃあ、それスーツのポケットに入れといて」
「ううん、あたしがしてあげる。窓から見てるわ」
「おい…」
「うん?」
「もしかして、俺が大通りに出た瞬間、ズボッと畳むんじゃないだろうな」
「わかる?」
「…何となく」

リモコン開閉傘というだけでも必要以上に凝った仕掛けなのに、まったく何を考えてるのやら。

「じゃあ、いいよ。もう傘要らないから」
「だめよ、脱いじゃ」
「町中で笑いもんになってたまるかよ」
「このスイッチ、押すわよ」
「なんだ、それ?」
電気ショック
「つけんな! そんなもん」

FacebooktwittertumblrmailFacebooktwittertumblrmail

「傘の話」への6件のフィードバック

  1. 夏のスリラ~~、でした。
    それにしてもこの「大笑い傘」からそう連想するか?
    何か潜在意識の底に・・・
    ありそうですねい。

  2. Chieさん、潜在意識…傘。。。そう、あれはまだ雪深い大晦日。このままでは正月の餅もつけんと、ひとり藁で傘を編み。。。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください