匿名Rの嘆きと野望

仮に名前をRとしておこう。粉雪の舞う冬空の元、不況で職を失ったらしい。しょぼくれた目と赤い鼻は、一晩中泣いていたのか、あるいは深酒の結果か。

長い沈黙の末、Rは重たい口を開いた。

「合理化でね」

Rにとっては寝耳に水の話だったようである。まさかこの時期の解雇があろうとは、予想もしなかったらしい。彼にとっては唯一仕事がある季節でもある。

「俺のような年寄りが入っていると、燃費が悪くなるらしいんだ」
「若い連中だけで固めるっていうこと?」
「ああ、給料も安く押えられるしな」

Rの目に涙がたまっているのが見える。僕が差し出したティッシュを受け取ると、大きな音を立てて鼻をかんだ。一瞬、鼻が明るく光ったような気がした。

「おまけに生体照明を使う時代じゃないとかで、前方照明は廃止。今じゃレーダーが暗い夜道に役に立つんだとさ」
「確かにレーダーの方が事故防止には良いかもね」
「昔のように、一軒一軒良い子悪い子を確認してたんじゃ、とてもじゃないが一晩で仕事が終らない。そんな時代にいつまでちょうちんぶら下げてんだって、人事部長から言われたよ」

一理ある話ではある。でもベテランのR無しで、今年の仕事がうまく行くのだろうか。

「なーに心配いらないさ。今じゃ全部コンピュータ管理。配送先、地域別分担、煙突の有無、配送確認のEメールアドレス、全部データベースに入ってる。GPSで現在位置が分かるし、NORADの情報もこちらにフィードバックされてる。それに実際に煙突入するのは俺らの仕事じゃないしね」
「そんなに近代化されていながら、やっぱりトナカイなんだ」
「そりゃってのは大事だ」
「じゃあ、Rがいないと形にならないじゃん」
「地表から上空500mを走る俺が見分けられるかい?」

そう言われれば、ヘッドライトが付いている外、他のトナカイと区別できるほどの特徴は無さそうである。僕は心配になって彼の今後を尋ねた。

「俺って空を飛ぶことしか能が無いだろ?」
「…よく知らないけど、そうなの?」
「だから、お届けもの屋はどうかな?って」

単純である。

「でもいきなりこの業界に参入しても、難しいと思うんだ」
「そりゃ大手が既に業界を制覇してるからね」
「毛皮を黒く塗って、黒猫に化けようと思ってる」

詐欺である。

「一応、俺、どこの国でも入ることができるパスポート、持ってるんだよね。ほら、仕事で必要だし」
「それって、解雇されたら無効じゃないの?」
「黙ってれば分からないさ」
「...」
「これあると、普通の人は絶対に行けない国にも簡単に入れちゃうし、ヤバい物だって運べるんだ」

もう犯罪である。

「ヤバい物って?」
「なんでもさ。現金、輸出禁止品、人間だってかまわない」

Rの顔に、ほの暗く冷たい笑いが広がった。Rはそれ以上何も言わず、静かに立ち去っていった。

数日後、Rとの予期せぬ再開、新聞のトップページにあの見慣れた顔が躍っている。赤鼻のR、逮捕。罪状は密輸では無く、許可無く国外に出ようとした希少動物、つまりワシントン条約違反であった。

FacebooktwittertumblrmailFacebooktwittertumblrmail

12 thoughts on “匿名Rの嘆きと野望”

  1. パチパチパチ!!ブラボーです。
    これぐらいのを100作れたら食べていけます!
    文章の素人臭さが消えたし、
    オチもついているし、発想も新鮮です。

    よっ!日本のロアルトダール!

  2. 最後のオチには大いに笑うと同時に、
    してやられた~って思いました。
    LiLA管理人さん、うまいですよ~ ほんとに。
    あぁ楽しかった!(^^)
    ファンタジー作家デビューできそうです。

  3. Chieさん,ありがとうございます.そろそろ出版社から執筆依頼が来てもよさそうなんですが,うーん,あと99かぁ.下手な鉄砲なんとやらで書きまくってたら,中には一つくらいゴールデンチケット入りがあるかも.

  4. ポージィさん,ただのファンタジー作家ちゃいますよ.理系ファンタジー作家...あ,またカエルの合唱が!
    R君,今年のクリスマスは留置場で一人静かに夜空を見上げているようです.

  5. リラ派ですか。縞猫派とか、リラ派がウィキペディアに載る日をたのしみにしております。

  6. え?何派?
    吉本派じゃなかったんですか?
    おかしいな・・・。

  7. とくさん,念のためにググってみましたが,リラ派,100件ほどヒットするようです.Wikipediaへの道もそれほど遠くないかも.

  8. Chieさん,きっと何処か他所のblogと勘違いなさっておられるのでしょう.吉本派blog,うーん,きっとあそこかなぁ...

コメントは停止中です。